電波式レベル計が提供する災害対策への価値
年明け以降、「各地で水不足」という言葉をニュースで耳にしている。私たちにとって雨は恩恵であり、必要不可欠である反面、時として憂鬱なものでもある。まして、近年よく耳にする記録的大雨や局地的大雨などは、憂鬱などという域を遥かに超え、脅威でしかない。少し振り返ってみると、時間雨量50mmを超える短時間強雨の発生頻度も30年前の1.3倍ほどになるそうで、過去10年間では国内の98%を超える市町村で水害や土砂災害が発生しているそうだ。地球規模でみると、温暖化に伴う海水温の上昇や気候変動の影響で、21世紀までに世界的な平均気温は3℃(中間値)ほど上昇し、海水面も0.5m(中間値)ほど上昇すると予想されており、昨今の台風の大型化をみても、水災害に対する備えの重要性を痛感させられる(写真1,2,3は豪雨後の北九州某所の様子)。
写真1 増水した河川
写真2 冠水した生活道路
写真3 電波式水位計(危機管理型水位計)
河川水位計とは、文字通り“河川”の“水位”を計測する計測機器である。代表的な計測方式は、水圧の変化により水の深度(水位)を計測する“圧力式”、設置面から水面までの空間距離を測定し深度を計測する“超音波式”や“電波式”があり、一部ではカメラによる画像認識により深度を検出する方法も採用されている。それぞれに特徴はあるが、近年では気象条件や環境条件の影響を受け難い電波式の水位計が数多く採用されている。これらの水位計は人の目に代わり、増水や氾濫の予兆などの危険水位をいち早く察知し、万一の際に迅速な避難行動を促すための重要な役割を担っている。
電波式水位計のカテゴリも幾つかあるが、ここでは危機管理型水位計(写真3)について紹介する。危機管理型水位計は、2017年の九州北部豪雨のような中小河川の氾濫が相次いだことを受け、それまでは一級・二級河川中心であった監視体制を中小河川にも広げるため、国土交通省が基準や仕様を決定し、2018年から社会実装され始めた低コストタイプの水位計システムである。従来型の水位計はコストも高く、なかなか中小河川にまで配備できないという課題があり、国土交通省では革新的河川管理プロジェクトを始動、低コストで洪水に特化した水位計の社会実装を目指したのである。この危機管理型水位計は、常時電源が供給され24時間連続で計測を行う水位計とは異なり、平常時は休眠と計測を繰り返し、連続監視が必要な条件(水位の上昇)となった場合にのみ連続で計測を行う。また、ソーラーパネルと蓄電池(バッテリー)、通信機器を備えており、無給電で5年稼働できる仕様となっているのも特徴だ。計測データはクラウドを介して閲覧できるようになっており、「川の防災情報」で検索すると最寄りの河川の水位情報が確認できる。
桶門とは、支流となる小さな川や水路から大きな河川に合流するポイントに設置されたゲート(水門)で、河川の水位が上昇した際に支流や水路に増水した水が逆流するのを防ぐ目的で設置されている(写真4)。小さな桶門では、人手により開閉を行っていることも少なくないが、最近ではこの水位や流向を計測することで、門の開閉を自動化しているところも増えている(写真5)。
大きな河川の氾濫が甚大な被害に直結することは言うまでもないが、支流や水路への逆流による比較的中小規模な洪水であっても人命にかかわる事故や被害に繋がる場合も少なくなく、やはりこのような支流や水路における水位の監視も重要な災害対策と言えるのではないだろうか。
写真4 桶門
写真5 桶門用水位計
堰とは、河川の上流の水位を上げ、下流との水位差を持たせるための設備で、流量計算に利用される以外に、上流側の水位を高くすることで農業用水路への取水を容易にしたり、河口付近では海水の逆流を防ぎ、塩害を防止するなどの役割を持つ設備である。堰は主に利水目的で使用され、水門のような堤防としての役割は持っていないものの、増水時には積極的に流水を海に流し河川の氾濫を防止する役割を果たす。堰における水位計(写真6)は、これらゲート開閉の自動判断や遠隔監視システムへのデータ伝送、異常水位アラートなど、堰を適正にコントロールする上で重要な役割を担っている。
写真6 堰用水位計
ダムは治水と利水の両側面の役割を持っている。治水の面では、大雨や台風などによる急激な河川の増水を軽減させる役割を持ち、利水の面では発電や生活用水の確保という役割だ。この水位についても季節毎の地域色に合わせた調整が必要で、貯水と放水を行いながら地域の安全に寄与している。この役割を最大限に活かすためには、やはり水位の計測が重要であり、他のアプリケーション同様に水位計が活用されている(写真7)。
ダムの水位を計測することは、貯水量を把握することに加え、ダムそのものを守るという目的もあり、構造物として堪え得る水量を超過しないように制御するのも水位計による情報が必要だ。また、放水に際しては、ダム下流の住民の安全確保のため事前に下流河川の増水情報、氾濫危険情報や避難情報発信が必要となるため、この判断にも利用されている。
写真7 ダム貯水量監視用水位計
潮位計測用水位計とは、いわゆる潮位計のことを言う。潮位計とは、文字通り“潮位”、つまり海水面の高さを計測する水位計である(写真8)。海水面の高さを計測する目的は多岐に渡り、例えば測量の基準面を決めるのに利用されたり、防災の観点では高潮や高波の警報に活用されたりする。また長期的な視点では、地球温暖化による海水面の上昇を観測することにも用いられており(写真9)、地域の防災という枠を超え地球規模での防災とも言えるかも知れない。このように継続的な監視とデータの蓄積が必要とされるアプリケーションは、正に24時間連続で計測できる水位計の得意分野である。
その他、港湾管理などでも潮位の情報は活用される。船舶の航行安全や荷役作業の安全判断など、防災とは違った安全という切り口で使用されるケースも多い。

写真8 潮位計測用水位計

写真9 検潮所(気象庁HPより引用)
本記事では水位計について紹介しているが、この技術はもともとレベル計測技術(液体や粉体を貯蔵するタンクの残量を計測する技術)を応用したものである。一般的なレベル計測の場合においても、測定した貯蔵情報をオペレータに知らせたり、自動制御に用いられたりすることまでは同じであるが、あくまで事業所の中で完結することが多い。ここで言う“知らせる”と言うのは、一般市民である私たちへの情報提供を示している。これには、IoT技術の発展が大きく寄与しており、測定データをIoT機器に与えることで、IoT機器がクラウドにデータを伝送し、例えば気象庁を介して私たち国民がその情報を知ることができるのである。現在ではスマートフォンなどの移動通信技術の発展もあり、より多くの情報を、より高速に、そしてリアルタイムに受信することができるようになった。それらすべての技術やインフラにより、危険情報が発令されれば一斉に“知らせる”アラートシステムが構築され、現在の私たちの安全を支えてくれているのである(図1)。

図1 水位計情報伝送イメージ
ちなみに、危機管理型水位計に関して言えば、2025年時点でおよそ5300か所の国管理の河川に設置されているようで、最近では小さな河川でもその姿を見る機会は増えており、身近な存在に感じられるようになってきたのではないだろうか。
本記事では、防災ならびに災害対策として活用される水位計と、それらが担う役割について紹介した。河川敷や橋梁、防波堤などの水辺を訪れる機会があれば是非水位計を探してみて欲しい。もし見つけることができた折には、その役割について家族や知人にも紹介して戴き、話題のひとネタにでもして戴けると幸甚である。
●計測技術 2026年6月号(日本工業出版株式会社)
本記事で紹介した電波式水位計の詳細は、下記からご確認ください。