農業用水管理のICT化と水位計普及の展望
近年の気候変動や農業従事者の高齢化に伴い、農業用ため池や用水路の効率的な管理が課題となる中、ICT(Information and Comumunication Technology:情報通信技術)を活用した、スマート水管理システムの導入が進んでいます。
スマート水管理システムは、水位や流量のリアルタイム監視、遠隔操作による水量制御、さらには災害時の早期警報発信など、農業用水の最適化と安全管理に貢献しています。
目次[非表示]
- 1.農業用水管理の課題
- 2.ICT導入の目的と効果
- 3.スマート水管理システムの種類と特徴
- 3.1.圃場(ほじょう)水管理システム:
- 3.2.配水管理システム:
- 4.ICT化の課題と展望
- 5.水位計普及の展望
- 6.電波式水位計の特徴
農業用水管理の課題
農業用水管理のICT化の背景には、農業従事者の高齢化と気候変動による影響が大きく関わっています。
農林水産統計によると、60代以上の農業従事者が全体の70%以上を占めており、高齢化が深刻な問題となっています。この状況下で、水管理は水稲栽培における労働時間の約3割を占め、大規模農家にとって大きな負担となっています。
一方、気候変動の影響により、異常気象や災害リスクが増加しています。農業従事者の約半数が温暖化による被害を経験しており、台風や熱波などの自然災害に対するリスク認識が高まっています。
これらの課題に対応するため、ICTを活用した水管理システムの導入が進められ、労働力の省力化や効率的な水利用、災害対策の強化が図られています。
ICT導入の目的と効果
ICTとは、コンピュータやインターネット、通信技術を活用して情報を収集・処理・伝達する技術の総称です。IT(情報技術)とほぼ同じ意味ですが、ICTは特にコミュニケーションに重点を置いているのが特徴です。簡単にまとめると、IT=情報技術(処理・管理中心)、ICT=情報通信技術(処理+通信・共有)を意味します。
ICTを活用した水管理システムの導入には、農業用水管理の効率化と省力化という主要な目的があります。このシステムにより、農家や土地改良区の水管理労力と費用を大幅に削減することが可能となります。
具体的な効果として以下が挙げられます:
- 遠隔監視・制御による水管理の省力化:約8割の労力削減が実証試験で確認されています
- 効率的な配水による節水と節電:約4割の削減効果が報告されています
- 水管理の適正化による水稲の減収抑制と品質向上
- パイプラインの長寿命化への貢献
- 緊急時の迅速な対応が可能になり、災害リスクの軽減
これらの効果により、持続可能な農業経営の実現に貢献することが期待されています。
スマート水管理システムの種類と特徴
圃場(ほじょう)水管理システム:
農家が管理する圃場の給水栓と排水口を、設置したセンサーを用いて、水位や水温などのデータをリアルタイムで取得し、制御するシステムです。
このシステムの主な特徴は以下の通りです:
- 水位計、温湿度計などを使用。
- スマートフォンやパソコンを通じて、水田の水位や水温をリアルタイムで遠隔監視できる
- 水田の水位を一定に保つ一定湛水(いってい たんすい)、水田に定期的に水を供給し、間隔を置いて乾燥期間を設ける間断灌漑(かんだん かんがい)、スケジュール運転など、多様な水管理方式に対応
配水管理システム:
土地改良区などが管理する配水管理システムは、ICTを活用して農業用水の効率的な配分と管理を実現します。
このシステムの中核となるのが、農研機構が開発した「iDAS」(ICTを活用した圃場-水利施設連携による配水管理制御システム)です。
このシステムの主な特徴は以下の通りです:
多様なセンサー類、制御機器に対応
- パソコンやスマートフォンから遠隔で農業用水の供給を制御可能
- 圃場の水需要に応じた自動的な配水管理
- ポンプ場から農家の給水栓までをICTで連携し、一元的に管理
- クラウドとLPWA技術を活用した低コストで拡張性の高いシステム構築
- 水需要に応じたポンプ運転による節水・節電効果(約4割の削減効果を確認)
このシステムにより、土地改良区などの施設管理者の労力軽減、農業用水の節水、ポンプ電力の節減が実現され、パイプラインの長寿命化にも貢献しています。
特にパイプラインを用いた灌漑地区での効果が高く、農業水利施設の維持管理の効率化と持続可能性の向上に大きく寄与しています。
ICT化の課題と展望
ICTを活用した水管理システムの導入には多くの利点がありますが、いくつかの課題も存在します。特に高額な初期投資が主な障壁となっており、小規模農家にとっては導入が困難な場合があります。また、農業従事者の高齢化に伴い、新しい技術への適応が課題となっています。
今後の展望としては、AIやビッグデータ解析の進展により、より精密な水管理や収量予測が可能になると期待されています。さらに、データ連携基盤の整備により、異なるシステム間の相互運用性が向上し、より包括的な農業管理が実現すると考えられています。これらの技術革新により、農業の生産性向上と持続可能性の確保が進むことが期待されています。
水位計普及の展望
持続可能な農業を実現するためには、より精密かつ効率的な水管理が求められています。水面の高さを測定し、データをリアルタイムで提供する水位計はその中心的な役割を担います。水位計の普及は、農業用水管理と防災対策の両面で大きな可能性を秘めています。水位計は、重要施設周辺や支川合流部など、従来観測が行われていなかった箇所にも設置されつつあります。
電波式水位計の特徴
マツシマメジャテックの電波式水位計は、河川、ダム、潮位、工場、農業用水など様々な水位計測に適した先進的なソリューションです。
この水位計の主な特徴は以下の通りです:
- 26GHzのマイクロ波を使用し、微弱無線適合機器として屋外での使用が可能
- 最大20mまでの水位計測が可能
- 非接触式のため、濁流や流木による損傷リスクが低い
- 暴風雨や豪雨、霧などの悪天候下でも安定した計測が可能
- NETIS(新技術情報提供システム)に登録された国内初の電波式水位計
また、メンテナンスが容易で消耗品がないため、長期的な運用コストの削減にも貢献します。