センサ活用で進める製造業の働き方改革|IoT・DXで変わる現場と事例紹介
「残業規制」「有休取得の推進」――働き方改革関連法の施行により、多くの企業で労働環境の改善が進みました。
一方、製造業の現場では、ライン作業や設備保全など、物理的に現場に人が必要な業務において、限られた時間で従来通りの生産や柔軟な対応を維持することや、熟練者の経験や勘に頼った作業の標準化が進まないなどの課題が浮き彫りになっています。
こうした現場の課題に対して、センサを活用したIoTによるDXが注目されており、実際に課題を解決した事例も増えてきています。本記事では、これらの課題とDXの取り組みを中心にご紹介します。
【用語解説】
- センサ:温度・圧力・振動・位置などの物理現象を電気信号に変換する装置
- IoT(Internet of Things):モノがインターネットに接続され、データを送受信できる仕組み
- DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタル技術を活用してビジネスや業務を根本から変革すること
製造業における働き方改革の現状と課題
2019年の法施行以降、製造業の現場でも残業時間の上限規制や年次有給休暇の取得義務化といった制度対応が進められてきました。
しかし、制度対応が進んだ結果として、現場では次のような課題が顕在化しています。
- 労働時間の制約による生産性低下:残業削減で稼働時間が限られ、従来どおりの生産量や柔軟な対応を維持するのが難しくなった。
- 技能習得の停滞による属人化:労働時間が短縮され、若手が熟練者から技術を学ぶ機会が不足。結果として特定の人に依存する業務がある。
- 業務標準化の必要性:有休取得が推進され、担当者が不在となる場面が増えた。業務を滞らせないために、作業手順の見える化や効率化が不可欠になった。
センサ活用による導入効果
製造業の現場課題には、センサやIoTを活用したDXが効果的です。設備や環境のデータをリアルタイムで把握することで、経験や目視に頼らない管理が可能になります。
具体的には、次のような効果が期待できます。
- 稼働状況の見える化:無駄な待機時間や突発停止を減らせる
- 安全性の向上:危険兆候を早期に検知し、事故や健康リスクを低減
- ベテランの経験を見える化:センサを導入することで、熟練者の経験や勘を継承することが不要となり、誰でも操業ができる
- 柔軟な働き方:リモート監視やデータ共有で少人数でも管理可能
さらに、センサで収集したデータをクラウド上で分析することで、業務プロセスの最適化や作業スケジュールの詳細化も可能となります。時系列分析により設備ごとの使用傾向や異常傾向を把握でき、点検・保守のタイミングを最適化することができます。これにより、省エネ・省人化に加えて、設備の安定稼働や品質のばらつき防止にもつながります。
導入事例
導入事例1:集塵ダストのルート回収問題を解決
従来、工場内に散在する集塵ホッパにたまったダストは、内容量にかかわらず毎日定期的にトラックで回収されていました。
課題:
- 貯蔵レベルが少ない場合は無駄足になる
- 人手不足の中で負担が減らない
- ムダに動き回るのでガソリン消費も増える
解決策:
マイクロ波レベル計で集塵ホッパの貯蔵レベルを計測し、LoRa無線で管理システムに送信。回収ルートを効率化することで、省人化・省エネを実現しました。
導入事例2:電気炉湯面のレベル計測
1500℃近い電気炉の湯面温度は、炉の縁から作業員が温度計を手作業で挿入して計測していました。
課題:
- 高温環境での作業は危険を伴う
- 自動化を進めるには、温度計を挿入する深さを調整するために湯面の正確な位置情報が必要
解決策:
ミリ波レベル計で湯面レベルを正確に計測し、その情報をもとにロボットが温度計を適切な深さまで挿入。これにより、湯面温度の計測を自動化・省人化し、安全性の向上にもつながりました。
導入事例3:ベテラン作業員の経験を標準化
自動車リサイクル工場では、車の破砕時に発生する綿埃を集塵機で回収後コンテナまで圧送し、一定量になるとコンテナを交換していました。
課題:
- 突発的に圧送量が増加した場合はベテラン作業員でもタイミングを見誤り、定量値オーバーとなることがある。
- 若手作業員でも誰でも適切なタイミングでコンテナの切替えができるようにしたい。
解決策:
レーダー式ミリ波レベル計で連続監視することで、内容量が数値化されるため、定量値を見誤ることがなりました。また、 見える化されることで、経験値による誤差がなくなり、誰でも切替えできるようになり、標準化につながりました。
まとめ
センサ技術は、製造業における働き方改革を加速させるカギです。IoTとの連携により、現場の見える化、省人化、生産性の向上が実現され、従業員の働き方も大きく変わります。
今後の製造現場では、「働き方改革×センサ活用×IoT」の視点で新たな価値創造が求められます。積極的なテクノロジー導入が、未来のスマート工場実現に不可欠です。
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