産業用ロボットの特別教育や資格について
産業用ロボット技術の発展や法整備の改定により、さまざまな企業やその工場への導入が進められています。特にここ数年でロボットの出荷台数は急激に増加しており、事故件数の増加などが懸念されています。ロボットを導入することで生産の自動化や省力化など多大なメリットをもたらす反面、事故やドラブルは人命に関わる事態に発展する可能性が高く、安全面での対策や教育がより重要になってきます。そのため、産業用ロボットを取扱うには、作業者全員の資格取得が法律により義務付けられています。この記事では、必要な資格や取得方法など、産業用ロボットにおける資格についてご紹介しています。 |
産業用ロボットを扱うには【特別教育】資格取得が必須
労働安全衛生法第59条第3項 事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行なわなければならない。 引用:労働安全衛生法 第六章 労働者の就業に当たっての措置(第五十九条-第六十三条) |
すべての作業者とは、ロボットのプログラミングやメンテナンスなど直接ロボットに関わる作業者だけではありません。間接的に関わる作業者も含まれます。少しでも関連する可能性がある場合は特別教育を受講し資格取得をしておきましょう。また、関連する作業者に資格取得させることは事業者の義務となっており、無資格で作業を行ったり行わせた場合は、作業者と事業者の両方が罰せられることとなります。すべての作業員が正しい教育を受け、高い安全意識を持つことで事故やトラブルの発展を未然に防ぐことが大切です。
資格のいらない産業用ロボットも…
すべての産業用ロボットに対して作業員が資格取得をする必要があるわけではありません。産業用ロボットの中には「協働ロボット」と呼ばれる型もあり、出力が80W未満の場合に限り、資格不要で取扱いできるロボットが存在します。
協働ロボットは、人と同じ環境で作業をすることを目的として低出力で開発されており、モノとの衝突や人との接触があった場合でもリスクが少ないように、緩衝材や自動停止プログラムなど安全面により配慮した設計・製造となっています。
もともと、労働安全衛生規則第150条の4により、産業用ロボットが人と同じ現場で作業を行う場合は、安全柵などを設ける必要がありました。しかし、平成25年12月24日付基発1224第2号通達により、ロボットと人との接触による危険がないと判断された場合は、同一現場で協働することが認められたのです。
参考:産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について
特別教育の内容は「教示」「検査」の2つに分類される
特別教育で行う内容は法律により定められており、大きく分けて教示(産業用ロボットの教示等の業務に関わる特別教育)と検査(産業用ロボットの検査等の業務に関わる特別教育)の2種類に分類されています。担当する作業内容によって受講内容が異なってくるため、資格取得の際は自らの担当業務に適した特別教育を受講する必要があります。
産業用ロボットの教示等の業務に関わる特別教育
科 目 |
範 囲 |
時 間 |
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学科
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産業用ロボットに関する知識 |
・産業用ロボットの種類
・各部の機能及び取扱い方法
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2時間以上 |
産業用ロボットの教示等の作業に関する知識 |
・教示等の作業方法
・教示等の作業の危険性
・関連する機械等との連動方法
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4時間以上 |
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関係法令 |
法令及び安衛則中の関係条項 |
1時間以上 |
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実技
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産業用ロボットの操作方法 |
- |
1時間以上 |
産業用ロボットの教示等の作業の方法 |
- |
2時間以上 |
「教示」とは、ロボットに対して位置や速度、動作を記憶させることを指します。ロボット業界では「ティーチング」と呼ばれる業務に当たります。しかし、設定によってはロボットを壊してしまう可能性もあり、ロボットが実際に動く現場で作業するため、危険を伴う作業でもあります。そのため、特別教育では安全作業のための知識や技術の習得に加え、事故やトラブルリスクを最小限に抑える教育を行います。
参照:安全衛生特別教育規程(産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育)第十八条
産業用ロボットの検査等の業務に関わる特別教育
科 目 |
範 囲 |
時 間 |
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学科 |
産業用ロボットに関する知識 |
・産業用ロボットの種類、制御方式、駆動方式
・各部の構造及び機能並びに取扱い方法
・制御部品の種類及び特性
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4時間以上 |
産業用ロボットの検査等の作業に関する知識 |
・検査等の作業方法
・検査等の作業の危険性
・関連する機械等との連動方法
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4時間以上 |
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関係法令 |
法令及び安衛則中の関係条項 |
1時間以上 |
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実技 |
産業用ロボットの操作方法 |
- |
1時間以上 |
産業用ロボットの検査等の作業方法 |
- |
3時間以上 |
「検査」とは、ロボットの修理や調整などのメンテナンスを行う業務を指します。検査やメンテナンスを行う際は、基本的にロボットを停止した状態で行うことがほとんどですが、場合によってはロボットが動いたまま、その稼働範囲外から作業を行うこともあり、危険を伴う作業となっています。そのため、特別教育では安全作業のための知識や技術の習得、事故やトラブルリスク回避のための安全教育、ロボット内部の構造や部品に関する講習などの教育を行います。
参照:安全衛生特別教育規程(産業用ロボットの教示等の業務に係る特別教育)第十九条
特別教育の受講場所や条件
ここまでの内容を通して、産業用ロボットに関わるすべての作業員は法律により義務付けられた特別教育を受講し、資格取得することが必要であることはおわかりいただけたと思います。では、これらの資格を取得するための特別教育は一体どこで実施されているのでしょうか?
特別教育の実施場所は全国各地で行われています。
資格取得のための特別教育は、全国各地の労働基準協会連合会、JISHA(中央労働災害防止協会)で受講することができます。また、ロボットを製造・販売するロボットメーカー自ら特別教育を実施している場合もあるため、導入するメーカーが特別教育を実施している場合は、メーカーにて受講することをおすすめします。講座は定期的に開催されており、教育内容は法律で定められているため異なることはありません。しかし、受講科目(教示・検査)や所要時間は決まっており、受講者が定員数に満たない場合は開催されないこともあるので、開催日時や募集人数、条件を満たしているのかの確認を行っておきましょう。
特別教育修了者におすすめの資格
現在、産業用ロボットの国内外の生産現場への導入が急速に進んでいます。さらに、協働ロボットの出現も加わり、産業の自動化は年々高度化、複雑化しており、人とロボットが連携し安全環境を確保する新しい協調安全コンセプトが提唱されています。その一方、ロボット起因の事故は毎年のように発生しています。これらの労働災害事故を低減するため、安全対策やロボットに関する知識をより豊富に習得したいと思われている方もいらっしゃるのではないでしょうか? そのような方には、一般社団法人セーフティグローバル推進機構による「ロボット・セーフティアセッサ」の資格取得をおすすめします。ロボット・セーフティアセッサとは、機械安全に関する知識をベースとしたロボット特有のリスクアセスメントや、リスク低減に関する知識と能力を保有する人に与えられる資格です。特別教育など全課程を修了した作業員におすすめされています。
ロボット導入検討時には教育コストへの考慮も
産業用ロボットを導入することで、自動化や省力化、品質の確保などさまざまなメリットがありますが、同時にロボットを扱う全作業員には特別教育の資格取得が義務付けられています。そのため、ロボットの導入を検討する場合、設備導入コストのみならず教育に対するコストも視野に入れる必要があります。さらに、特別教育を修了したからといって実務レベルの作業を行えるわけではないため、検討段階からしっかりとしたスケジューリングを行うことをおすすめします。また、事業者の方は導入に伴うコストに加え、すべての規定を正しく理解しておくことも大切です。投資に見合うだけの価値をしっかりと見出だせなければ今後の事業経営の大きな負担となり、経営そのものが危ぶまれる事態に発展する可能性もあります。ロボットの導入において、こうしたリスクの把握と理解をした上で何度もシュミレーションと検討を重ね、しっかりと準備を行うことが最も重要です。