危機管理型水位計に代表される電波式水位計の防災活用
本記事は2023年8月発刊の専門誌「計装技術」に掲載された当社の記事を一部編集してお届けします。
目次[非表示]
- 1.はじめに
- 2.河川を監視する水位計
- 2.1.河川水位計とは
- 2.2.危機管理型水位計
- 2.3.危機管理型水位計の特長
- 3.その他の河川水位計
- 4.ダムにおける水位計の活用
- 5.潮位計としての活用
- 6.おわりに
はじめに
近年「氾濫警戒情報」や「氾濫危険情報」などの局地的大雨などに伴う予報や、「特別警報」など重大な災害の可能性が高まっていることを伝えるニュースを耳にすることが増えました。改めて調べてみると、時間雨量50mmを超える短時間強雨の発生状況も30年前の1.3倍になっており、過去10年間では国内98%を超える市町村で水害や土砂災害が発生しているそうです。
また、地球温暖化に伴う海水温の上昇や気候変動の影響で、21世紀末までに世界的な平均気温は中間値で3℃ほど、海水面は中間値で0.5mほど上昇すると予想されており、昨今の台風の大型化などを顧みても安全や防災に対する備えの重要性を痛感させられます。(写真1,2,3は豪雨後の北九州某所の様子)
写真1 増水した河川①
写真2 増水した河川②
写真3 冠水した生活道路
しかし、これらの自然災害そのものを防ぐことができないのが現実で、治水技術などによりそのリスクを低減させることが最大限であろうと考えられています。
であるならば我々一人一人にできることは何か、それは防災に他なりません。本稿では、これら災害の可能性を予測検知し、防災という視点で活躍している「水位計」について紹介します。
河川を監視する水位計
河川水位計とは
河川水位計とは、文字通り“河川”の“水位”を計測するセンサー(レベル計)です。センシング方法で代表的なものとしては、水圧を測定する“圧力式水位計”、水面までの距離を測定する“超音波式水位計”“電波式水位計”が挙げられます。
それぞれに特徴はありますが、近年では気象条件や環境条件の影響を受け難い電波式の水位計がポピュラーになりつつあります。これら河川水位計は人の目に変わり河川の水位を監視し、増水や氾濫の予兆など、危険水位を一早く察知することで、万一の際に迅速な避難活動を促す役割を担っています。(写真4)
写真4 電波式水位計
危機管理型水位計
我々の生活圏にはこれら水位計が多く活躍し、その情報を自治体が管理しているのですが、一言で水位計と言ってもその運用には大きく2つあります。
一つは常に電源が供給され24時間連続で監視を行っているもの、二つ目は休眠と稼働を繰り返し、監視が必要な条件が発生した際にその監視周期が連続測定に切り替わる“危機管理型水位計”と呼ばれるものです。(写真5)
写真5 危機管理型水位計
では、危機管理型水位計とはどの様なものなのか簡単に紹介します。
以前は、河川に水位計は設置されているものの、その数は決して十分とは言えず管轄の担当職員が目視で監視するということも行われていたそうです。
しかし、この方法は非常に危険を伴うためカメラによる監視も進められてきましたが、夜間の監視は映像が暗く判別に課題がありました。そこで国土交通省では水位監視網をより多くの河川に普及させるべく、低コストで正確にセンシングできる危機管理型水位計の開発に着手したのです。
危機管理型水位計の特長
ここで、危機管理型水位計の特長をいくつか紹介します。
- 小型、省スペースな設計で堤防や橋梁に設置しやすいこと。
- 太陽光パネルや蓄電池を備え、無給電で5年以上稼働可能なこと。
- 洪水時(水位上昇時)を中心とした計測に特化しデータ量と通信費を低減できること。(詳細は自律型、制御型などによって異なります。)
- 計測データはクラウドで閲覧可能なこと。
- 低コスト(1台あたり100万円以下)であること。
製品仕様の詳細については割愛しますが、このように国土交通省の定めた特徴を満たしたものが危機管理型水位計と呼ばれています。
その他の河川水位計
前項では危機管理型水位計について少しばかり掘り下げましたが、河川の水位を計測している水位計にも様々な用途(目的)があります。ここからは、それら水位計についても簡単に紹介します。
樋門(ひもん)における水位計測の事例
樋門とは、雨水や農水路の水が大きな河川に合流するポイントにおいて河川の水位が上昇した際に逆流を防止するためのゲート(水門)開閉施設で、水位計はこのゲートの開閉制御に使用されています。(写真6,7)
写真6 樋門
写真7 樋門用水位計
この用途では、水位計の他に流向計を併用することで、より確実な樋門制御が可能となります。
堰(せき)における上下流水位計測の事例
堰とは、河川の上流の水位を上げ、下流との水位差を持たせるための設備で、用水路などへの取水を容易にしたり、河口付近では海水の逆流を防止するなどの目的を持つ設備を言います。
堰は主に利水目的で使用され、水門の様な堤防機能は持たず、むしろ増水時には積極的に流すための役割があります。水位計は、この制御のために用いられています。(写真8,9)
写真8 堰
写真9 堰上下流用水位計(下流)
ダムにおける水位計の活用
ダムの役割とは何か、大きくは治水と利水になります。治水とは大雨や台風に伴う洪水などを軽減させることをいい、洪水調整とも呼ばれます。利水は、発電や生活用水に利用することをいい、これらは季節毎の地域色に合わせて貯水と放水(水位を下げる)を制御し、私たちの暮らしの安全と安心を支えています。当然、この貯水量の制御(ゲートの開度制御)を行う上では貯水量を正確に把握する必要があり、ここでも水位計が活用されています。(写真10)
写真10 ダム用水位計
潮位計としての活用
潮位計測とは、いわば海水面の高さを計測することで、その目的は多岐に渡ります。例えば測量の基準面の決定に利用されたり、高潮や津波などの災害情報、地球温暖化による海面上昇の観測にも用いられているそうです。どれも、短期的な変化ではなく長期的な変化を観測し、データを蓄積していくことが重要視されています。この様な用途であるからこそ24時間連続で監視、データ収集することができる水位計の得意分野とも言えます。(写真11)
写真11 潮位計
写真12 水位計測に使われる電波式水位計
おわりに
本稿では防災、安全対策として活用される水位計について紹介しました。現在はその設置場所も増え、身近な河川でもその姿を目にする機会が増えています。
本記事をご覧いただいたみなさまにおいても日常の中で既に目にしており「これは何だ?」と思われていたかもしれません。本稿で紹介した内容がその答え合わせになったならば幸いです。